中山人形


                              画像サイズ変更および追加、加筆修正 (2021年5月23日)
                              座り猫底の紙張りを追加  (2023年3月2日)

中山人形
 種類:土人形
 制作地:秋田県横手市
 現制作者:樋渡徹、樋渡浩三


 中山人形は江戸末期に鍋島藩の陶工野田宇吉が南部藩に招かれたことから始まる。宇吉は天保の飢饉によって廃窯となった南部藩をあとにし、放浪のすえ横手にたどり着いた。やがて中山に移り住んで結婚し、生活雑器などを焼いたことから中山焼きは始まった。移り住んだ先が吉田村字中山であったので吉田人形あるいは山中人形と呼ばれた。宇吉の子、金太郎は樋渡ヨシと結婚した。瓦や煉瓦を焼くかたわら副業としてヨシは宇吉から粘土細工を習い、地元の姉様人形や押し絵を元に明治7年に中山人形を誕生させた。やがて歌舞伎や地元風俗と型が増え、中山人形はその種類を増していった。さらに昭和3年ヨシの孫である三代目義一が仙台堤の研究生となり、帰った後さらに多くの型を起こして中山人形の種類は増えた。その後も新型が追加され現在に至っている。
 なお、詳細に関しては人形に添付されている由来書を見ていただきたい。

  野田宇吉(初代)・・・樋渡ヨシ(二代目)・・・樋渡義一(三代目)・・・樋渡昭太(四代目)・・・樋渡徹(五代目)、浩三(樋渡徹の叔父)

 中山人形の型は四・五百にも及ぶという。昭和の初期の時点で、多く制作されている型は150〜160種程で年産15000個におよぶ人形が制作されていたとのことである。

中山人形添付の由来書(旧)
            
中山人形添付の由来書(新)

中山人形の招き猫
 代表的な招き猫は上目づかいの左手上げ招き猫である。大小2種類あり、大は高さ20cmを越え、小は土鈴になっている。紅い特徴的な柄の首たまに牡丹柄の前垂れをつけており、白猫(黒斑)と黒猫がある。どちらも左手を挙げている。白猫の黒い斑には銀の縁取りがある。鼻のまわりの黒斑に特徴がある。その他に眠り猫の土鈴もある。

招き猫 大  
上目遣い、鼻のまわりの3つの黒点は中山の特長 いずれも左手挙げ
尻尾は短い
 
底には紙が貼ってあり、水色で塗られている  
  招き猫(大)   高さ170mm×横100mm×奥行80mm
   背面の「秋田中山」の刻印


 招き猫 小(土鈴)  
小さいが前垂れの模様は大形と同じ 左手挙げ
首タマは赤で模様はない 基本的なつくりは大型と変わらない
招き猫土鈴
左手挙げの招き猫で基本的なつくりは大型と同じである
小さくても丁寧に彩色され
前垂れには牡丹が描かれている

高さ88mm×横58mm×奥行58mm  
土鈴なので鈴口がある  
 
招き猫大と招き猫小(土鈴)




眠り猫土鈴

 招き猫と同じ牡丹柄に鼻のまわりの
 三点の黒斑も同じ
ひげはなし

 高さ30mm×横72mm×奥行50mm  




 招き猫ミュージアムのトレードマークの一つとなっているこの招き猫も中山のものと思われる。画像のものは板東寛司氏所有の招き猫を元にしたレプリカであるが、型抜きではなく流し込みであることをのぞけば忠実に再現しているとのことである。どこのものかはっきりはしないとのことだが、首たまの模様をはじめ中山人形とひじょうに共通点は多い。
 日本郷土玩具 東之部(武井武雄1930)によれば中山人形は「馬鹿でかいものはなく、せいぜい一尺級のものが天神、猫、福助、等4・5種ある」と記載されている。この招き猫もその中山人形の最大級の一つなのかもしれない。
 

中山人形と思われるレプリカ  
上目遣いに鼻の三点斑 左手挙げ
豪華な前垂れ 尻尾は彩色されている
 高さ250mm×横180mm×奥行170mm 



          中山人形の招き猫(大)と古作中山人形?レプリカ


 招き猫ではないが下の猫も中山のものと思われる座り猫。やはり顔の描き方や首たまの模様が共通している。前垂れには牡丹は描かれていない。
   ※その後、型が見つかり制作が再開された。    

座り猫  
中山人形の特徴を持つ座り猫 尻尾は長い
上目遣い 裏面に斑はない 右の耳が黒い
 中山人形の座り猫
上目遣いの目の描き方や
首タマの模様や鼻のまわりの模様も同じ
前垂れの描き方はかなり異なる
底は塞がれており、
八橋人形のように少しえぐられている

高さ145mm×横130mm×奥行90mm
底は閉じていて、胡粉が塗られている
「かまど猫」
比較的最近型が見つかり制作された猫
基本的な彩色は同じだが、
すっきりした顔つきになっている
(2021年中野ひな市で販売)



愛知のNさん旧所蔵品(下)
注目すべきは底の具合
破けてしまっているが紙が貼ってある
現在制作されている招き猫も底は紙張りだが
我が家で所蔵している座り猫は底が塞がれている
制作年代の差だろうか
猫以外の中山人形を所有していないので
底の比較はできない
  最近になり制作再開された
   
全体の彩色は変わらない 紙張りの痕跡が残る 


 中山土人形を制作している樋渡人形店は横手駅の裏手にあたり、何回か伺ったことがあります。しかし、東北方面へ行ったついでで、連絡なしの突然の訪問だったため、残念ながらいつも不在でした。当時の制作者樋渡昭太さんとは電話やFAXでのやりとりは何回かしたことがありましたが、結局会わずじまいでした。残念ながら四代目の樋渡昭太さんは平成11年暮れに亡くなくなられました。まさに翌年に予定されていた樋渡昭太さんご本人の手により構成・展示されることになっていた「中山人形と俳句展」の準備が始まったばかりだったそうです。樋渡昭太さんは俳人でもあり、雅号を「瓦風」、その父三代目義一氏も俳人で雅号を「瓦山」と称したのだそうです。展示は予定通り「中山人形と遺句展」として開催されました。40年以上の制作経験を持つ浩三さんと若いころから四代目の元で修行をしたという徹さんに中山人形の制作が引き継がれていると聞き、一安心です。
 雅号の中にある「瓦」という文字、そして土人形の箱に押されている「瓦」の印はまさに初代の家業へのこだわりなのかもしれません。

 ※現在の駅前は区画整理され、町名も変更されている。また店(制作所)の場所も少し離れた地点に移転しているようだ。

                   
                    箱蓋の左下に「瓦」の印が押してある


 中山人形は2021年に秋田県伝統工芸品に指定された。



  「中山人形と遺句展」に関しては http://www.kennichi.com/news00/Apr/n000427.htm(リンク切れ)
  中山人形工房 土人形師のお話 (「蔵 vol.12」)児玉醸造株式会社企業誌で見ることができます。
  秋田ふるさと村フリーペーパー むらびと2号「中山人形の世界へようこそ」 





参考文献
招き猫尽くし (荒川千尋・板東寛司、1999 私家版)
日本郷土玩具 東の部(武井武雄、1930 地平社書房)
日本の土人形 (俵有作 編著、1978 文化出版局)
東北の玩具 (仙台鉄道局編纂、1938 日本旅行協会)
全国郷土玩具ガイド1(畑野栄三、1992 婦女界出版社)
おもちゃ通信200号(平田嘉一、1996 全国郷土玩具友の会近畿支部)
蔵 vol.12(児玉醸造株式会社、2001 児玉醸造株式会社)
秋田ふるさと村フリーペーパー むらびと2号(秋田ふるさと村、2015 秋田ふるさと村)